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「さぁ、みんな今年もこの時期がやってきたよ!」
一年に一番たくさん雨が降る時期、梅雨。
たくさんの色とりどりの傘が花のように咲いてきれいな季節。
僕たちはそんなきれいな世界へ舞い降りる。
わくわく、どきどき。
あっと言う間の旅だけどとても楽しい瞬間。
今年も楽しもう!
僕たちの仲間の中には、下に行くのが怖い、嫌だ!という奴もいるけれど、
僕はやっぱり楽しい。
空の世界は、そりゃ地上に比べれば、きれいだし僕たちの仲間もたくさんいて楽しいけれど。
だけど、地上に降りて行く間の景色がすごくいいんだ。
色んな色が目に飛び込んでは消えて、また現れて。
透明な僕たちは何色にもなれる気がするんだ。
そして僕たちは、いろんな場所にたどり着く。
今年はどこに着くのだろう。
そんな事を考えながら、僕は今年も旅立つよ。
去年、出会った赤いかさの女の子は元気かな。
白い猫はまだあのパン屋の軒下にいるかな。
いろんな記憶がよみがえる。
少しの間、空の世界とはお別れだけど、
また戻ってくるからね。
「ねぇ、おかあさん」
「なあに」
「今年もつゆがきたね。赤いかさでお出かけの日がきたね」
「そうだね」
「あめは本当に雨の日が好きだね」
「うん!だってあめの生まれた日だもん。それにかさを広げた時のあまつぶたちの声を聞くのが好きなんだ」
「あまつぶたちは何て言っているの?」
「えーないしょ。あめの秘密なの」
「そっか。ざんねん」と言いつつお母さんは笑っていた。
「さぁ、今からクロネコヤにお誕生日のケーキ買いに行こうね」
「うん!あそこの白い猫のクロちゃんも今日はあまつぶの声聞いてるかな」
クロネコヤに到着すると白猫のクロがあめにかけよってきて、ウインクした。
「今年もやって来たね。あまつぶたちのつぶやき。あめも聞こえた?」
「うん。聞いたよ。ってもういないじゃん。もうクロはホントに勝手なんだから」
いつのまにかクロは、店の奥に消えていた。
猫はやっぱりきまぐれだ。
話しかけたと思ったら勝手にいなくなる。
地上に到着したとたん、あっという間に僕たちは消えちゃうけど、
ばいばい、忘れないでね。また来年来るよ。
僕たちは、梅雨の時期担当の特別なあまつぶなんだよ。
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