あの女

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ベッドの傍らに立てかけてあったバットを手に取る。 (…やらせない。やらせる訳にはいかない。) 決意を胸に扉を開ける。 そこに居たのは… 「…えっ?」 片手に包丁。もう片手には『 何かあったら電話しろよ』と言ってくれた同級生の右手らしきもの。 彼女と記念日にお揃いで買ったんだ、と笑って言っていた指輪と同じ物が輝いている。 「…見たわね。」 …。 …。 「今日は焼肉よ。美味しい?」 向かいの席に座る旦那に問いかける。 「…あ、あぁ。だけど。」 隣の空席をちらっと見る旦那。 「そう。良かった。私ね、このお肉が大好物なの。病み付きになっちゃう位にね。」 笑顔で肉を焼き続ける。 「…」 隣の空席を無言で見つめる旦那。 ゴトッ。 息子だった物が音を立てて落ちた。
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