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続いて、休む間も無くもう一品目へと取り掛かる。
牛ヒレ肉をベーコンで巻き、メダル状に成形してバターで焼いた牛ヒレ肉のメダイヨン。
そこに同時進行で作っていた赤ワインとバターに、塩で味付けしたソースをたっぷりと掛け流した。
茹で上がった付け合わせのジャガイモとニンジンを添え、これで二品目の牛ヒレ肉のメダイヨン、赤ワインソースも完成だ。
この一連の、無駄の無い美しく流れるような調理を見ていたタイセイは悟る。
(……なんということだ。とんでもないものを見せられたものだ……)
もはやこの時点で、食べるまでもなく勝敗は喫していた。
エレーナにより、テーブルに運ばれてきたタイセイのリクエスト料理二品。
そのそれぞれに一つずつ口をつけたその直後、彼は潔くこう告げる。
「参った。儂の負けだ」
呆気なく引き出されたその言葉を、皆一瞬理解出来なかった。
だがすぐに「わぁっ!」と、店は騒然となる。
エレーナも直己の手を取って喜んだ。
「やったね! 直己! やったんだよ!」
「あ、ああうん。じゃあ、僕はここで料理をしても……」
「いいってことだよっ! ね、村長さん!」
「ああ」と言って、タイセイが立ち上がる。
「認めよう。お主は村から追い出すにはあまりにも惜しい料理人だ」
この発言により、皆一層熱を上げて直己とエレーナを祝福した。
まるで我が事の様に、直己がこの地に残れることを喜ぶ店の客達を見ながらタイセイは思う
(もしかしたらこの世界の大いなる力に導かれ、この直己という少年はこの地にやってきたのかもしれんな。だとしたら儂がどうのこうのしたところで、結局運命はこの結果に収束したのだろう)
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