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なぜ直己に、こんな芸当が出来るのか?
なぜ、左手でなくてはいけなかったのか?
これには彼が料理と歩んできたその根幹と、大きな関わりがある。
料理を始めたばかりの幼い直己がまず興味を持ち、最初に独学で作り出したのは、まさかのフレンチだった。
その理由は単純明快。
テレビで見た、コック帽を被ったシェフが格好良かったから。
そもそも左利きだった彼は、左手でフレンチを日々作り続け、その技術を天才的なスピードで修得する。
そこから和食を含めた広義の日本料理へと興味がシフトする際のことだ。
料理道具や料理の盛り付けなどの関係上、左利きは日本料理には不向きだということを知る。
そしてそれを知ったからには、利き手を矯正せずにはいられなかった。
そんな事情から、今では右利きとなった直己。
しかしフレンチを作る時だけは、その技術と感覚が宿った左手で包丁を持つのだ。
フレンチの左手、日本食の右手。
今、エレーナを驚かせ続けるその技術は彼にとっては、封印していた左包丁の技術を久し振りに解き放ったに過ぎなかったのだ。
こうして、ジャガイモに続いてニンジンもお手本のようなシャトー剥きにした直己は、久し振りに作るフレンチに、こんな場面にも関わらず懐かしさと楽しさを覚えていた。
(後は茹でればメインの付け合わせは完成だ。この間にガトー仕立てに取り掛かろう!)
茹でて塩味をつけた鶏肉、トマト、ブロッコリーを一センチ角に切り、それをバターやマヨネーズを繋ぎにして寄せ、三層からなるガトー仕立てを作り上げた直己は、そこへタルタルソースを添える。
(よし、鶏肉のガトー仕立て、タルタルソースはこれでいいかな)
これで一品目は完成。
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