298人が本棚に入れています
本棚に追加
更にはこんな反省も。
(それに元はと言えば儂もここに居る者達も、そのほとんどがワケアリだったのだ。それが今では善き隣人となった。エレーナが見込んだ男なのだ、ならば彼もまた……。いや、儂以外の者にとっては、既に大事な隣人のようだ……)
そして、こう思い至る。
(今思えば、あの天ぷらという料理にはそういう意味合いが込められていのかもしれんな。衣が中の素材と上手に同居……いや、あまつさえその良さをお互いに引き出しあってすらいた。そういうことなのだろう? マスターよ)
タイセイが直己に視線を向けた。
するとそれに気付いた彼が、はにかみながらペコリと小さく頭を下げる。
「ふっ」
タイセイもまた、顔をしわくちゃにして微笑み返した。
(……まったく。才能を持ち、希望に満ち溢れた目をした若者にはかなわんな。眩しくてたまらん)
彼はより目を細め、また顔の皺もより深くしたのだった。
こうして、たんぽぽに訪れた最初の大きな危機は、無事切り抜けられる。
そしてこの日の夜……。
◇
日中からずっと弛んだままの顔をしたエレーナが、上機嫌で直己に話し掛けた。
「ねえ直己」
「ん?」
「今日はおめでたい日になったし、特別なことしよっか?」
「と、特別なこと!?」
思春期真っ只中な直己は特別なことと言われ、真っ先にイヤらしいことを想像した……かと思いきや。
(エレーナのことだ、きっと僕の想像の斜め上くらいのことを言うぞ……)
最初のコメントを投稿しよう!