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「オメェの席無ぇから」
(ベタなイジメキター!?)
高校二年生。
今年で十七歳になる空木 直己(うつぎ なおみ)。
彼が登校直後、自分の席が無いことに狼狽えている所へ、そんな声を掛けられたのだ。
心無い言葉はなおも続く。
「あとオカマ野郎はオカマ野郎らしく、昼は女子便所で弁当食えよ? 教室に居られちゃあ目障りだからな!」
この日から、直己にとっての悪夢が始まった。
消える筆記用具。
下駄箱からひとりでにお出掛けしたまま帰ってこない上履き。
教科書に載っている作者や歴史上の偉人達の顔も、残らずファニーなものにされていた。
……なぜ、こんなことになってしまったのか?
その心当たりが全く無い直己は、少なからず動揺する。
(なんで急に僕がイジメの標的に? 彼らを刺激するようなことは何もしてない筈だけど……)
そう不思議に思うのも当然であった。
それくらい普段から彼なりに、こういった事態に陥らないよう細やかな努力をしていたのだ。
ナオミという響きと中性的な見た目も相まって、彼は男友達から女扱いされ、幼い頃よりイジメられやすかった。
その上、普通ならばナオキと発音するような漢字のため、初対面の人間……特に教師に名前を読み間違われて呼ばれる度にしつこく周りからからかわれてしまう。
そんな彼が学校という小さな社会の中で、生き抜くために身に付けた術は「空気」になるということ。
前髪も伸ばし、その隙間からしか世界を見ないことで、より外界との接点を減らし、内へ内へと入り込む。
こうしたことで、確かにイジメは無くなっていった。
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