0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
『本日の降水確率は50%。通勤通学時また、帰宅ラッシュ時に急激に天気が崩れる可能性があります。折り畳み傘の準備を──』
六月中旬、所謂梅雨だ。
でも、こんな時期くらい夕立に襲われるのも悪くないかな、なんて思う。
困るのは、教科書が濡れてしまうことだ。濡れて乾いたあとの皺のよった教科書も、字の滲んだノートも、大嫌いだから。
僕は昔一度だけ、本を濡らしてしまったことがある。大雨の日にバッグのなかにいれていて、急いで帰ったのに濡れてしまったのだ。あの日は、泣いた。本に申し訳なくて、ありったけの知恵を使って直そうとした。……結局、今もその本はあの日の痕跡が残っているのだが。
あれからずっと、本を運ぶときは雨が降ろうと降らなかろうと食品用パックにいれて持ち運んでいる。まぁ、雨が降っていれば持ち運ぶことすらしないのだが。
ここまででわかるかもしれないが教科書やノートも、僕にとっては守るべき"本"である。文字の書かれた紙が綴じられていればそれは"本"だ。学校で配られたレジュメなどは本ではない。だから僕の配慮の対象外になる。
そんなことを考えていると家を出る時間が近づいてきていた。
「あ……」
歯を磨きに洗面所へ向かう途中で、空いている窓から外が見えた。
雨だ。ふざけないでほしい。
「あ、ねぇ、兄ちゃん。今日、暇だったりしない?」
「朝は送っていけるけど、帰りは無理だぞ。今日は俺、飲み会だから」
「じゃあ、朝だけでいいからお願い」
「おう、少し待ってろ」
上機嫌なところを見ると飲み会という名の"合コン"だろうということがうかがえる。
「兄ちゃん。今日の相手はどんな仕事なの?」
「今日か? 薬剤師……だったかな。まぁ、ともかく病院勤務の娘達らしい」
「へぇ、楽しみなんだ。珍しい」
「いつもは断る新島も来るらしいから、相当可愛い娘揃いなんじゃねぇかな、と思って」
新島、面食いって噂だから。と兄ちゃんは続ける。
「お、幸夜。もう行くか?」
「うん。よろしくおねがいします」
そう言って、僕は兄ちゃんの車で学校へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!