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Repeat after me(繰り返してください)
幼馴染みが死んだ。
高校の下校中に車にはねられての即死だった。
だけど運転手を恨むことは出来ない。だって幼馴染みは自分から飛び出したのだから。
何故、幼馴染みが飛び出した理由は分からない。本当に突然のことだったんだから。
もちろん法律では運転手が悪いことになる。でも、責めることなんかできなかった。
涙を流しながら土下座をする姿を見て罵倒できる程、自分本位にはなれない。
むしろ、幼馴染みが突然飛び出したのを止めることが出来なかった自分を責めた。
あの時、呆然とせずに手を伸ばしていれば止めることが出来たのではないか。
もっと言えば、あの時いつもの道を歩いていれば事故に遭わなかったはずだ。
どうして、自分は幼馴染みの誘いに乗っていつもと違う道に行ってしまったんだろうか。
悔やんでも悔やんでも現実は変わらない。
幼馴染みが目を覚ますことは決してない。
ただ、空っぽの日々だけが自分を置き去りにして流れていく。
幼馴染みと過ごした部屋の中で1人、壊れて18時30分丁度を指し続ける腕時計を眺める。
これはお揃いで買ったもので、幼馴染みが最後の瞬間まで見つめていた形見だ。
全く同じ形、同じ柄。なのに片方はあの日から動かず、もう片方は動き続ける。
酷く不自然だ。いつも一緒に時を刻んでいたのに、今は1人が動くだけ。
どうしようもなく空虚な気持ちながら、幼馴染みの腕時計を血が出る程に強く握りしめる。
そして、叶うことのない願いを告げた。
もしも、願いが叶うのなら、あの日に戻って―――幼馴染みの死の運命を変えたい、と。
瞬間、動かなかったはずの針が動き始めた。
驚く自分を放置して時計はあの日に向かって、逆さ向きに時を刻み始める。
そう、幼馴染みが死んでしまったあの日へと。
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