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第1章 春
学校の手前、ほんの数メートルに到着するバス停から、
揃いのカバンに制服の生徒たちが登校してくる。
「おはよう」
「…おはよう」
「昨日のテレビみたー?」
華やいだ声に、軽い挨拶の嵐。
もうかれこれ、どれくらいこの景色を眺めているだろう。
バス停の向かいにある公園の茂み向こうのベンチから
登校してくるバスを何台か見送り
私は大きなため息をついた。
まだ予鈴は鳴らない。
あと数台は眺めていても問題ないだろう。
誰も私の存在に気がつかない。
いや、視界の端には入っているはずだから、
きっと、気にもならないのだろう。
「1人くらい気づいてもいいのにね」
ぽそりと声に出して呟いたことに、
我がことながら、ちょっと驚いて苦笑する。
私はまだ誰かとかかわりたいのか。
もう、十分にその想いは潰えたものと思っていたのに。
-誰も、本当の私のことは知らない
-誰も、本当の自分なんて見せない
-誰も、人のことなんて考えていない
そう。
そうでなかったら、
その命はとっくに失われて行くのだから。
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