第一章 夏の足音

3/3
前へ
/17ページ
次へ
内容は、こうだ。 「久しぶりだね。ぼくのこと覚えてるかな。 累くんが小学生の頃、足を折って入院したことがあったよね。その時、隣のベッドにいたのが、ぼく、市村葵です。 実はずいぶん前に累くんの家の住所は聞いていたんだけれど、メモにとった紙がどこにいったかわからなくなってしまって、連絡ができなかったんだ。ごめんね。 累くん、退院した後に一度、見舞いに来てくれたことがあったよね。その時に一緒にいった夏祭りのこと、覚えているかな。今度また、こっちの地域でその祭りがあるんだけど、もしよかったら、一緒にいこうよ。 連絡待ってます。葵より」 ずいぶんと奇麗な字でそう綴ってあった。 僕は、葵くんといったあの夏まつりを思い出して、少しの間、意識を過去に飛ばしていた。体が弱いから一年に一度しか外に出れないんだと、悲しそうに病室で語っていた葵くんが、とても楽しそうに笑っていたあの祭り。 二人で食べたブルーハワイのかき氷がとても美味しくて、僕もあり得ないほどはしゃいでいたっけ。青くなった舌を見せつけてはしゃいでいる葵くんを見て、葵くんのお母さんも嬉しそうに笑ってたっけなぁ。 と、懐かしみながら淡い桃色のびんせんを眺めていると、余白のところに凹凸があることに気づいた。筆圧が強いのだろう。手紙をひっくり返すと鏡文字が浮き上がっている。もう一度ひっくり返して表の余白に視線を戻すと、その筆圧の濃い文字の跡がハッキリと見えた。 「夏の色を教えてくれませんか」 はっきりと、そう見えた。 夏の色とは、いったいぜんたいどういうことだろう。全くわからない。 きっと、ほかの何かを―――おそらくは、手紙を書くときに、写ってしまったものだろう。僕は考えあぐねた結果そういった結論を出して、特に気にも留めず、賛成の手紙を送ることにして、封筒と切手を探しに席を立った。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加