本編

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「いや~社長、今日は改めて私なんかをゴルフにお誘い頂きありがとうございます」少しオーバー気味にお辞儀をして御礼を言う。 「いいってことだ。私もゴルフ場には長らく出ていなかったから、行きたいな、とは思っていたんだ。なにより君のしつこいアプローチに最後は負けたよ」そう言うと笑ってくれた。 「いや~すいません。どうしても社長と是非ゴルフをご一緒したくて、何度もアプローチをしてしまいました。ゴルフのアプローチは駄目ですが、社長へのアプローチは大成功!ということで」 「調子の良い奴だ」2人で笑い合う。 社長の話す表情、態度、話すトーンからも悪い感じはしない。 良し。これまで20年この会社に入社して、社長に気に入られるために築いてきたものは間違いではないようだ。ようやく2人っきりのゴルフまでこぎつけた。このチャンスを必ず活かして、のし上がってやる。 この会社には昔からの都市伝説的なものが存在した。それが、社長にゴルフを誘われたら出世する、というものだった。私が入社してから今まで社長は、代がわりをせず、ずっと第一線で活躍されていた。入社当時から言われている話だったが、私は未だかつて社長とゴルフに行った社員を見たことも、聞いたこともなかった。それが苦節20年。ついに社長から誘って頂いたのだ。家族が不機嫌になる中、社長とご一緒した時に失礼にならないように、時間を作っては嫌いだったゴルフを必死に練習して、ゴルフ雑誌を隅から隅まで読んでは、ゴルフの話題を勉強する。そして社長と話す話題を作り「是非今度ご一緒させて下さい!」と何度も何度も繰り返し言っていたのだ。それがようやく実ったのだ。さあ、出世は手の届くところまで来ているはずだ。当てるだけでカップに入る、ショートパットのようなものだ。ただ、焦りは禁物だ。じっくり焦らず、そして決めてやる。
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