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「それにしても今日は絶好のゴルフ日和ですね。私は雨男なんで、雨の日のゴルフが多いんですけど、こんないい天気は珍しいです。きっと社長の日頃の行いが良いからですね」私は会話を途切らせないように様々な話をした。すると、天気の話を切り出した途端、まさしく社長の雲行きが変わり始めた。普段から笑顔の絶やさない社長の表情が一瞬にして強張る。そして睨むように私の方を向いた。
「君も、あの雨男なのかい?」
社長とは思えない低い声のトーンだ。私が今までどんな失敗をしても、優しく対応して下さった社長が見せる初めての表情だ。
「えっ、あ、その・・・そうですね」社長の迫力に思わず歯切れが悪くなる。一体どうしたと言うのだ。
「そうか。まさか、こんな身近に雨男がいるなんてな」社長の鋭い眼光は私の両目を離さなかった。
「は、は、はい」恐怖のあまり返事をするだけで精一杯だった。
すると、お天道様も我々の会話を聞いているのか、話に合わせるように実際の天気の雲行きも怪しくなってきた。
社長は空を見上げ言う。「まあ、雨が降ってもいいだろう。なんせここにいるのは雨男だけなのだから」そう言うと社長は不気味に笑い始めた。
「しゃ、しゃ、社長も雨男なんですか?」恐る恐る聞いてみる。
キッとまた睨みつけて答える。「ああ、いかにも。私は呪われた雨男の一族だ。初めて気がついたのは小学生低学年の時だ」
「そんなに早くに」私は相槌を入れる。
一層鋭い睨みが返ってきた。
「ヒィ」思わず叫んでしまう。なにがいけないと言うのだ。小学生で雨男とわかるのは、早いだろ。勘弁してくれ。
「小学生低学年まで私は一度も外に出たことがなかった。当たり前だ。雨男なのだから。両親に家に閉じ込められていた。しかし、私は外に出たくて脱走してしまったのだ。そして不幸にも、その日に雨が降ってしまったのだ」
「はあ」社長が何の話をしているのかさっぱりわからなかった。
「雨男の君にもこの後の惨劇は容易に想像できるだろ?犠牲者は100人を超えていたらしい。もちろん後から聞いた話だが。私は意識が戻り、気が付くと体中が血で真っ赤だった。初めて人を殺した日だ」
「こ、こ、殺す?」なぜ雨男の話から人殺しの話になるんだ?夢なら覚めてくれ。
いつの間にか空は真っ黒の雲で覆われていた。いつ雨が降ってもおかしくなかった。まるで私の心の中だ。
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