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ステンレスの影
クロエは行きつけの小さな美容室で会計を済ませていた。
「はい、いつも通り丁度」
トレーに現金を置いた。
「うん、丁度ね。来てくれてありがとう」
担当の美容師、と言っても従業員は佐藤、この人しかいないのだ。佐藤は微笑みながら領収書を手渡した。その時、佐藤はクロエに一言言った。
「ねぇ、毎回言うのもアレなんだけど…クロエちゃんは嫌い?自分の眼」
クロエはその問いには答えなかった。
「佐藤さんは3~4カ月に一度は見るじゃない。今日も見たでしょ」
クロエは領収書を見つめながら言った。
「あら、矛盾?」
佐藤は絶えずに微笑みながら言った。
「理由知ってるでしょ。見え難い方が楽なの。何年ここに通ってると思ってるの?」
クロエは毒っ気のある言葉で答えた。彼女の発言は喧嘩腰に聞こえるが佐藤はそれを承知の上なのである。だから気に留めない。取り柄なのか口角が上がりっぱなしの佐藤は言った。
「その眼で私はいつもどう見えてる?」
佐藤は興味津々にカウンターに両肘を立て顔を掌で包んだ。
「表情的に嘘はついていない」
クロエは昔、入院してた時の記憶を振り返った。
『貴女、看護婦さんなのになんでそんな顔するの?』
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