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クロエは前髪で視界がぼんやりとしている眼で地面に落ちている潰れた空き缶を見た。それは明らかにただの潰れた空き缶である。次に前髪を分けてくっきりとした視界で潰れた空き缶を見た。空き缶がドブネズミの死骸に見えた。
『嗚呼…残酷だ』
分けた前髪を手早く直し、さっさと歩き出した。
『キレイな眼。ボクのと交換しよ?』
幼少期、一つ上の兄ジェレミに片目をフォークで刺されたことがある。色彩を持っていない白眼の兄はこの偽りの眼が欲しいという。何でも『裸眼でも眩しくないし、それに見えないものも見える』からだと言う。子供の心理「興味の湧くものに恐怖心はない」恐怖がないというか、それをやってはいけないという制御心が完全には作られていないのだ。
あの時は痛かった。見えないなら見えないでそれで良かったが、奇跡的に視力も落ちずに回復してしまった。兄の白眼は光を一に集めてしまい視界も眩しいというより真っ白な空間にいる様なものである。【白い空間】というものは結構、危険なもので精神を狂わす。不安になってパニック発作が出るのだ。だからジェレミはクロエの眼を初めて見て色を認識でき、欲しくなったのだろう。唯一の色のおかげでジェレミは躁病だ。
しばらく歩くと行きつけである小さなブックカフェ【野うさぎ】へ立ち寄った。
「おやまぁ、いらっしゃいクロエさん」
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