ステンレスの影

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 うさぎの着ぐるみを被ったオーナーがカウンターから機嫌の良い声が聞こえた。クロエは迷わず特等席であるカウンターの席に荷物を置いた。  「チャイラテのホット。いつものサイズね」  クロエの注文は基本決まっている。  「ええ、かしこまりました」  オーナーの着ぐるみのせいで表情は分からないが機嫌の良い返事が返ってきた。さっさと注文を言い終わるとクロエは手早く決まった場所から心理学関係の本や資料、エッセイなどを次々とカウンターへ持ち込み、本を広げた。  「いつもながら勉強熱心だこと。そんなに勉強が好きなら大学に行けば良いのに」  オーナーはカウンターに出来上がったラテを置きながら言った。  「良いのよ。別人の為に勉強してるわけじゃないから。それに大学より此処の方が勉強しやすいのよ。大学行くにしても年齢的に手遅れだと思うし、煌びやかなキャンパスライフも私には必要ない」  クロエはきっぱりと断った。  「でも、野うさぎ。つくづく思うんだけど、よく大学の教科書とか参考書まで取り揃えてるよね。なんで?」  小さな店の大半は本でぎっしり積み込まれている。年代物から新刊の小説全般、各所の大学の教科書やその分野で使われる資料などさまざま取り揃えてある。     
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