ステンレスの影

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 「さぁ、なんででしょうねぇ?本が好きだからでしょうか。知り合いから譲ってもらったり。大学を卒業した方が邪魔だと言ってくれるんですよ。そしたらこの有様です」  野うさぎは本棚があるところに手を向けた。  「まさか、この本全部読んだりするの?」  半信半疑にクロエは野うさぎに言った。  「うーん、全てではありません。私にも好きなジャンルはありますから。でも、お客様が面白そうに読んでいたら気になって読みますね。まぁ、私は読む専門ではなく、蒐集家ですから」   野うさぎの表情は読み取れないが言葉を聞くと楽しそうである。蒐集家。クロエは成る程といった感じで納得した。野うさぎは本の装丁が好きらしい。その内、本が外にまであふれそうだ。  「ふーん。本が好きなら自分で作ってみたら?」  「ははは、実は書いてるんですよー。出版は考えてませんが自己満足でお客様に朗読しているんです。勉強熱心な方が近くにいるもんですから」  野うさぎは能天気に自分の趣味を暴露した。  「まだ、製本はしていませんが楽しいですよ?」  「朗読ねぇ…あんたらしい」  クロエは本に書いてある気になる事項をノートに書き留めつつ、気になるページには付箋を貼ったりし、2時間半で切り上げようとした時、野うさぎはノンアルコールのモヒートをクロエに差し出した。  「お疲れでしょう?サービスです」     
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