あの夜

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あの夜

わたしはあらゆる物に盗聴機やカメラがあるかもと、物を分解しまくった。ホームセンターで買った盗聴探知機は何を指しても真っ赤に反応するのだ。 携帯、ビデオデッキ、果ては机から鏡に至るまでわたしは盗聴機を探して分解しつづけた。どんな形してるのか、知りもしないのに。その日は一睡も出来なかった。いや、させてもらえなかった。なんと言われ罵倒されたのか、今では覚えていない。 そんな行動が続いて腹がたったのか、 「さあ、すぐ死ね、今死ね、自分で死ね 」の追い詰めが始まった。 ただ思った。もう、ダメだ! 気がついたら、カミソリを手にしていた。 「死ななきゃ!死ななきゃ!」 あのにさんだってもういない。 ブシュッ! 血飛沫が飛んだ。 か、足りない。こんなんじゃ死ねない! いくつか傷をつけた後、ベッドから降りてバスルームへ向かった。 夫とは、長い間一緒に寝てはいなかった。わたしがイビキをかくから嫌だと、居間のソファーで寝るようになっていたのだ。自分の姉を疑い物を破壊する妻をどう思っていたのだろう。聞いたことはない。 駆け込んで、お湯で切り口を洗いながら、また新たな切り口を作ろうとした時、声が聞こえた。 「水がもったいない」 こいつは、死のうとする瞬間まで、こうも追い詰めようとするのか。冷静に、手を切る血まみれのわたしを観察しているのか。ぞっとした。 切った切り口から、筋肉なのか自分の中身の肉が見えて、吐きそうになる。 段々朦朧としてくる意識。 その時だった。いつの間にか朝の5時を過ぎていて、出勤前の夫がシャワーを浴びようとバスルームに入って来たのだ。 「ひろち!」 久しぶりに彼はわたしのあだ名を呼んだ。引き揚げられて脱衣場でわたしは意識を失った。
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