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郁と誠也は年の離れた兄弟だ。
亜衣香にとってはふたりとも幼馴染になる。
ある晴れた日、ピカピカのランドセルを背負った亜衣香が元気いっぱいで帰宅すると、お隣さんは引越し作業の真っ最中だった。
「初めまして。これからよろしくね」
中学の制服に身を包んだ背の高いお兄ちゃんは、すぐに亜衣香に気付いて朗らかに笑った。軽くしゃがんで目を合わせる。差し出された手につられて亜衣香もそろそろと手を伸ばせば郁はやさしく握り返してくれた。
それからというもの顔をあわせるたびに挨拶を交わし、いろんなことをお喋りした。口の悪い誠也とひとたびケンカになれば、仲裁に入るのはいつも郁の役目だった。
片想い歴もそろそろ八年。亜衣香もようやく〝出会った頃の郁の年〟になった。
大学進学とともに家を出た郁とはなかなか顔をあわせる機会がない。
だから全校集会で紹介された教育実習生の中に彼を見つけたとき、始めは錯覚だと思った。ほっぺたをつねって夢ではないことを確認すると、次はドッキリだろうかと思った。
在学期間がかぶらないほど年の離れた幼馴染と、まさか同じ学校に通える日がくるなんて。
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