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ガラス窓を見たついでに服装におかしなところがないかどうかこっそりチェックする。制服に汚れた箇所はないし、スカートの後ろも折れ曲がってない。
髪型もこれなら一応合格。
「行かないの?」
そっと安堵の息をついていた亜衣香の上から大好きなテナーボイスが降ってきた。言葉の意味がすぐには掴めず亜衣香は小首を傾げる。
郁は傘を持っていない方の手で彼方を指差した。
「学校。遅刻するよ」
「行く。けど、あの……出てきたら雨が降ってたから。傘を出そうと思ったんだけど、」
未だ鞄に突っ込んだままの手を見下ろす。
と、同じように視線を向けたらしい彼から得心がいったように相槌が返ってきた。
「ああ、入れたつもりが入ってなかったのか。うーん、じゃあおいで」
「……えっ!?」
亜衣香は思わず目を丸くした。
違う、傘はちゃんと鞄に入っている。差すか差さないかを迷っていただけ。
だが既に問題はそこではない。聞き間違いでなければ今の台詞は一緒に行こうというお誘いだ。
同じ学校に向かうのだもの、並んで歩くこと自体は何もおかしくない。
だけど今は雨が降っていて、郁は亜衣香が傘を持っていないと思っていて。それってつまり、
──郁の傘に入っていくということ……?
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