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空をぼんやり見ていたら、にゅっと龍が顔を出した。
龍は蒼白い光を宿した瞳でこちらをひょいと眺めると、
――ここいらにはもう雨伯はいないのかい。
唐突にそう尋ねてきたので、さあ、と答えてやると、
――ううむ、俺はどうやら取り残されてしまったようだなぁ。
そう言ってため息をついてしまった。
龍というののため息は、つむじ風だ。
くるくるりと巻き上げられる砂塵を眺めながら、ふむ、と声をかけてやる。
――そのうはく、というのはどんな奴なんだい。
そうすると、龍は一番星をのぞき込んで磨いていたけれど、声に気付いたらしく、にゅっとこちらに顔を向けてけらけらと笑って見せた。
――雨伯は雨を司るのさ。俺はその雨伯と一緒に旅をしていてね、雨伯のために雨雲や雷を調節してやっているのさ。
そう言っていたものだから、なるほど、この龍は梅雨明けを知らぬのだなとへんな合点がいった。ちょうど今日の昼、梅雨明けを告げる言葉があったばかりなのだ。
――探しても見つからないわけじゃ無いのだろう?
そう尋ねると、龍は少し情けない声を出して、
――それがな、こういうことは滅多にないから俺にもわからんのだよ。
そう言ってお手上げといった顔をして見せた。
――多分雨伯は北に向かったんじゃないかな。
梅雨明けの報道を教えてやると、龍は目を輝かせて、尻尾をくねらせた。そしてそのまま挨拶もそこそこに、にゅるにゅると北へ向かって移動をはじめた。
それから数ヶ月後の台風シーズンに、我が家のまえに沢山の真珠のような小さな珠が落ちていた。
もしかすると、あの時の龍のお礼なのかも知れない。
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