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ベンチの背もたれに身体を預けて、響野は本日何度目かの息を吐く。
……ある朝、突然、目が見えなくなったとしても、対処法はゼロではない。
ならば同じように、今の自分が感じているこの気持ちにも、きっと対処法は存在するのだろう。
答えを探したければ、手の中のスマホで検索してみればよかった。そうするだけで彼は、地球のあらゆる場所で日々生み出されている膨大なデータにアクセスできる。そこではつねに新しい情報が古い情報に置き換わり、正しい情報が誤った情報を駆逐し、人類の集合知として蓄積されていく。
実際には、少なからぬ量のバグやゴミはあるとしても、この世界をつなぐデータの海の叡智を今のところ響野は信頼していた。
潜れば必ず、誰かの残した解が見つかる。
問題は……たとえ答えが存在していても、響野にはそれを正しく見分けられないかもしれない、ということだった。
一度は手にしながら、確信が持てなくて手放すユニクロの靴下のように。
薬局から帰ってきた水元の声は、なぜか再び深刻なトーンに戻ってしまっていた。タクシー乗り場へ響野を連れていくために、自分の腕につかまるよう促すと、水元は立ち上がった彼にたずねる。
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