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「水元聖か?」
「そうだよ。久しぶりだな」
響野の横の空気が動き、ベンチのきしむ音がして、水元がとなりに腰を下ろしたのがわかる。
「普通だったら“元気にしてる?”って続けるところだけど……たぶん違うよね?」
「まあ、病院にいるしな」
「どうしたの、目」
「見えないんだ。朝、起きたらこうなってた」
水元は少し黙ったあとで、そう、とつぶやいた。
沈黙した水元のわきで、響野は自分の横に腰かけている元同級生についての記憶を探る。
最初こそ驚いたが、名乗られてみれば、確かに聞き覚えのある声だった。やわらかな話し方も変わっていない。
水元聖とは、中学二年生のときに比較的仲の良い友人同士だった。
だが、三年生になってクラスが分かれてからの記憶はない。進級してほどなく、遠方へ引っ越したと聞いたことがある。
「水元はこの病院で働いてたのか」
響野が言うと、相手からは意外な答えが返ってきた。
「違うよ、どうして?」
「だって、さっき車椅子を出してきただろう?」
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