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「一時間二十五分」と妙にきっぱりとした口調で、かつての同級生は答える。
「玄関のところで会ってからは、ちょうど二時間半かな。ていうか、“まさか”って何だよ。響野を待ってた」
「何で?」
「何でって……」
水元が応えかけるが、その続きはなかなか聞こえてこない。やがて相手はあきらめたように息を吐いた。
「そういうひねくれた口のきき方、全然変わってないな。玄関でちょっと話したときに響野のような気がしたけど、そんな雰囲気じゃなくて声をかけられなかった。でも、あのまま別れるのもどうかと思ったんだよ。だってこんな」
言葉の途中で軽く腕をつかまれる。水元の手だということはわかったのに、急にさわられたせいで、びくりと肩が揺れた。
介護士をしている水元は、すぐに響野のその反応の意味を理解したようだ。「ごめん」とあやまって手を離す。
「本当に見えないんだね……何があったの?」
「それがわからないから病院にきてる」
響野の返答に、なるほど、と水元は応じた。
「つまり、そういうことだよ。色々と素通りできる感じじゃなかったから待ってたんだ。どうせこのあとは予定もないし……外来は午前で終了だから、それまでに会えなければ、その程度の縁なんだろうと思って」
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