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俺だったら全力で素通りしてるし、そんなわけのわからない運だめしみたいなこともしない、と思ったが、響野はまたしても自分の言葉を飲み込む羽目になる。
「ちょっとごめん」と声がして、水元が響野の手にしていた処方箋を取り上げたからだ。
「この病院、院内薬局があるから、響野さえ嫌じゃなければ、俺が行って薬をもらってこようか? そうしたら、まっすぐ家に帰れるだろ」
「いいのか?」
「その代わり、帰りのタクシーに便乗させてよ。先に響野の家に回っていいから」
水元の声に、元のやわらかさが戻ってきていた。
処方箋と保険証を手にした水元が薬局に向かうと、響野はポケットからスマートフォンを取り出した。音声アシスタントの助けを借りて画面の読み上げ機能をオンにする。同じくポケットに入れていたワイヤレスイヤホンをつけ、しばらく試行錯誤してから、午前中に届いたメールやLINEが合成音声に読み上げられていくのを聞いた。
「自動車保険・山崎さん――“ご都合の良いときにお電話下さい”」
「佳子伯母さん――“お仕事お疲れ様。保険会社の方から電話がありました。伸也からもかけておいてね”」
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