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DAY1
ある朝、突然、目が見えなくなっていたらどうするだろう?
まず驚く。これは間違いない。
それに……困る。これもまあ間違ってはいなかった。
生まれて二十五年、彼の両目はおおむね正常に機能してきた。
つまり、今の自分は視力を使わずに生活した経験をほとんど持たない失明初心者だ。
何しろ初心者だから、この状況をどう受け止めれば良いか見当がつかない。
しかし、対処法までゼロというわけではなさそうだった。
* * * * *
何度かまばたきをして自分の視界がまったく変化しないことを悟ると、響野は小さく息を吐いた。そのまま枕の下に手を伸ばし、スマートフォンのボタンを押す。
「今、何時?」
「午前八時二十三分です」とスマホの音声アシスタントが答えた。
スマートフォンは完全に無実だったが、その回答に響野は舌打ちする。……遅刻じゃないか。
「会社に電話して」
「一番近い病院を探して」
「タクシーを呼んで」
スマホに指示を出しながら、見ろこれがテクノロジーの力だ、と誰に向けてかわからない勝利宣言をしてみる。保険証の入った財布と家の鍵もベッドサイドのデスクの上で見つかった。幸先がいい。
だが、スムーズなのはそこまでだった。
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