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正午はかなり前にすぎていたが、食事をすませた者は誰もいなかったので、話題は自然と昼食のことになった。
佳子が持参したのは、彼女の職場近くの惣菜店で売っている弁当だった。雑誌に掲載されることも多い人気店らしいが、グルメ情報にうとい響野は、へえ、と言う以上の相づちを思いつけず、伯母から不興を買った。
水元にスーツを着替えてくるよう勧めてから、佳子は人数分の食事をダイニングのテーブルの上に用意していく。先ほど朝食をすませたばかりだった響野は、腹が減っていないと辞退したが、それを聞いた伯母は、一口でもいいから食べたほうが良い、と反対に説得をしてきた。
「少し痩せたんじゃないの? ちゃんと食べてるの?」
「食べてるよ」
どうして食事のことばかり気にされるのだろう、と思いながら響野は答える。
「ひょっとすると何食か抜かしたこともあったかもしれないけど、水元が来てからはちゃんと食べてる」
「そうなのね、水元“君”が」
復唱する伯母の声は、なにやら妙な具合だった。言葉に合わせてちらりと通路のほうを向いたのは、着替えに行った水元が戻ってきていないかを確かめたらしい。
「なに?」
佳子の様子をいぶかしんで響野はたずねる。
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