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「そうだね、きちんと話していけばよかった。それは後悔してる」
再会した日にタクシーの中で言っていたことを、友人はもう一度くり返した。
「うちね、借金があったんだ。今考えるとそんなにたいした額じゃないけど、当時はきつかったんだと思う。おやじが実家に帰ることを決めたのは、ばあちゃんが心配だったことが一番の理由だろうけど、故郷に戻れば色んなことが仕切り直せるって気持ちも少しはあったんじゃないかな。俺は子供だったから、そういう話を友達にはうまく説明できなかった」
響野はしばらく迷ったあとで、「そうか」とつぶやいた。自分でもそっけない反応だと思ったが、他にどう返せばいいのかわからない。元同級生から聞く彼の過去は、響野の知らない情報であふれていた。
水元は話が逸れたことを詫びて介護士の話題に戻る。
高校卒業後も友人は祖母の面倒を見るつもりでいた。父親と同じように近場で就職口を探すことにして、学校から配られた進路調査票にも就職希望の旨を書いた。
ところが、高三の夏の終わりに、突然、祖母は亡くなってしまった。
訃報は病院から届いた。通所していたデイサービスでの転倒が原因で入院をしている最中の出来事だった。病院側には死因は肺炎と告げられた。入院に前後して罹っていた風邪をこじらせたのだ。
葬儀のあわただしさが一段落した頃、父親と担任の教師は、まるで示し合わせたように同じ話を水元にするようになった。
このまま就職をするのもいいが、もう少し自分のやりたいことを探してみる方法もあるんじゃないか。どうしても地元にとどまらなければならない理由はないんだから。
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