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少女は目が覚めた瞬間、その日が雨の日だと察した。カーテンの向こう側の窓を打ち付ける音が、ベッドからの脱出を難しくする。しかしそれは湿度がもたらす気怠さが原因ではない。一日がとても楽しい日になるということを察した瞬間、心の準備がまだであったからだ。大人になる過程で抽出された好奇心が目の前にあるかのように、小学生男子が意中の女子のスカートをめくるように、少女はそろりとカーテンをずらし曇天の空を確認した。濁ったその色は微睡んでいて、大きな怒号を含もうとする。パッと手を離すと、いたずらっぽく顔を赤らめた。些細なことでさえ、重大な事件となる。
少しだけ軋むドアが開くと、少女によく似た目をした女性が入ってきた。彼女の母親だ。
「アオン、起きなさい。もう起きてるの?」
「うん。雨降ってるね。植物ちゃん達は避難するの?」
「そうね、この雨の量なら放置でいいんじゃないかしら。だからあなたの今日の仕事は家の中の植物に少し水をやるだけでいいわ」
「それじゃあ、今日はお外で遊べる?合羽を着て、長靴を履いて!」
「いいわよ。でもその前に朝ご飯を食べて、宿題をきちんと終わらしてね」
「わかった」
机の上にある折り紙で作った立方体を特に意味もなくポケットに入れる。後で母親に自慢しようとする魂胆だったのかもしれない。
汚れ一つない真っ白な部屋でアオンは朝食を取った。角のない丸いテーブルは彼女には少し高く、いつも足をぶらぶらさせて母親に注意されるのだが、止められない。食べ終わり食器をキッチンへ下げると、すぐさま自分の部屋に向かい宿題に取り掛かった。ほんの30分ほどで終わり、成果を母親に見せると、ついに彼女の現時点での人生の使命の時間がやってきた。それは『植物に水をやる』こと。
アオンが住む家において最も大きな部屋。大量の小孔が壁や天井、床に巡らされていて、そこから漏れる光だけで成り立つ部屋に、直径で言えばほとんど同じ身長の如雨露を持って来た。それでも水を入れるところはわりに小さく、彼女でも持てる程軽い。先端をシャワーにしていよいよ準備完了。その使い古されたトタンの如雨露は、アオンの手の中で最も輝く。部屋の中心にただ一つあるその大きな植物は不思議な好奇心と恐怖を掻き立てる。青や緑や砂色が混ざるその奇異な植物の、白い部分にだけ水をやる。それぞれに一回ずつ。
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