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「わたしが村から出られる体力ないから、シキはわたしに合わせてるんだよね」  でもこの時のキャロルの思いつきは、当たらずとも遠からずって感じだった。  オレはキャロルを乗せて空を飛ぶのが楽しいからやってるんだけど、一人で遠くを飛んでる時に見つけた虹のかかった滝とか、夕焼けが綺麗に見えるガケとか見せられたらもっと楽しいだろうなって思うし。  今すぐどうこうなるような病気じゃないけれど、キャロルの好きな冒険譚のヒーローみたいに、キャロルを遠くにさらっていけないのは事実だ。  こうやって気分転換に連れ回すくらいなら身体にいいくらいだけれど、長い旅に耐えられるほどの健康体じゃない。  オレがキャロルの病気を治す旅に出たのはそれからすぐ後だった。  季節の変わり目になると必ず体調を崩すキャロルが、気候の変化、四季の移り変わりに耐えられるだけの身体を作るための薬の材料を探す旅。  秋の虫とカエルの声を同時に封じ込めるのはなかなかコツのいる作業だったし、シャイな雪だるま族に協力を求められるくらい仲良くなるのは大変だった。春の花の花びら全部を手に入れるのも気長すぎる作業だったし、天まで届かんばかりに伸びるひまわりの種は、普通のひまわりの種と見分けがつきにくくてきつかった。  便りの代わりに材料の余り(と、その協力者)をキャロルに贈ったのは無事でいる便りの代わりだ。  無事に四つの材料を手に入れて、なんとなく嫌な予感がしたから駆け足で故郷に戻ったオレが最初に見た景色は、真っ逆さまに落ちていくキャロルの姿だった。  せっかくアイツを元気に出来る方法がみつかったのに。なにくそ、ホウキもっと速度上げろ、早く助けなきゃ。  あの日、魔法を楽しめるキッカケという名の贈り物をくれた、オレの恩人で大切なアイツに、最高の贈り物を届けるために──。
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