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さてそんなワケで。わくわくを隠さないキャロルを後ろに乗せて飛ばんと、オレはホウキに念じたわけだが、当然そんなキャパシティを越えた無茶が出来るわけもない。
オレが必死こいてウンともスンとも言わないホウキに念じてる間も、後ろでキャロルは「ねえ飛ばないの? まあだ?」なんてはしゃいでいる。
逆に空気読めちゃうキャロルと遊んでたグループの女子は「もしかして、ふたりのりができないんじゃ……」「アタシたちでとめたほうがいいんじゃ……」なんてヒソヒソ言ってる。
女子って男より大人になるのが早いって言うけどマジだな。内心はどうあれ、少なくとも直接オレの事バカにしたりはしなかったし。そこが逆にいたたまれねえ。
このままだと後ろに乗せた女の子の笑顔まで曇るっておもった当時のオレは必死だったね。オレの全てを失ってもいい……今この瞬間だけオレに力をくれ!
って英雄のサーガの終盤の心情でホウキに念じてた。後ろに女の子乗っけて飛ぶだけなのに。笑っちまうね。
でも必死だったのがよかったのか、オレとキャロルを乗せたホウキはいきなりフワーッと浮き上がって、女の子たちが遊んでた花咲き乱れる広場をぐるぐる飛び回った。
相変わらず高度は地面スレスレだったけど、一人乗りしか出来なかったのが突然二人乗りだもんな。すげぇ進歩だよ。
「きゃー!! すっごーい!! わたし空飛んでる! 飛びながら走ってる!」
空飛ぶっていうか浮いてるだけなんだけど、ろくに走れないキャロルにはこれでも十分新世界が見えたらしい。
キャッキャと後ろではしゃぐ女の子、まさかオレがちゃんと飛んでみせるとは思ってなかったらしく、あんぐり口開けてタンポポ取り落としてる女子グループ。
いやー、爽快だったね。
こうしてオレは、優しくも厳しい師匠のおかげではなく、女の子への見栄をキッカケに魔法使いの第一歩を踏み出したわけだ。
師匠のじいさんも心当たりがある話だったのか、オレのゲンキンな上達理由を知ってもふてくされることもなかった。というかもっと仲良くなれた気さえする。
オレがある程度ホウキで空飛べるくらいになった頃、もう大丈夫だなんて言ってまた旅に出ちゃったけど今何してんだろうな。
まあじいさんの事はいいや。どっかで元気にやってるのは人づてに聞いてるし。
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