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 私の世界を壊したのは蛇だったのかもしれない。  リッシュがそう思い始めたのはここ数ヶ月のことだ。今まで思い当たらなかったのが不思議なくらいだ。  蛇……あまりにも巨大な蛇になるだろう。それでも幼き日に降りかかった理不尽に説明をつけるには、まあまあ納得のいく解釈と言える。  仮定した蛇がいかにしてリッシュの両親との穏やかな日を破壊していったかというと、単純に、物理的に、天災のように破壊していったのだ。  もう八年前になる。北欧はスウェーデンの片田舎、クラシェティ。よく晴れた青空の下、吹き抜ける風が麦畑を黄金になびかせた午後だった。丘の上で本を読んでいて、少し伸びをしたとき、地鳴りがあった。  当時十二歳の少女だったリッシュはわけもわからず、焦る父に手を引かれ、村外れの山道を目指した。バスがあった。村人たちはバスに乗り込んで、順次村を出ることになっていた。小さな村だったから、バスは三台で十分だった。母はバスの待機列にいた。両親の顔が揃ったことに、僅かばかり安堵したのを覚えている。  父がバスに乗って、リッシュに手を差し伸べ、その手を掴もうとした時、また地鳴りがあった。     
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