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それでも災厄から八年間、リッシュが諦観にくるまって過ごさなかったのは、自分が許せなかったからだ。
自分はもう無力な少女ではないと証明しなければ、自分を許せない。
そのためにできること。災厄をもたらした原因をこの手で突き止め、両親を――穏やかな日々を奪ってくれた代償を支払わせることだ。
代償を支払わせる相手は、蛇を使役する、あるいは蛇に化ける人間だ。
バスを打ち上げるほどの膂力と体躯を持つ蛇など、空想や妄想の類として一笑に付されて終わる。だがそれは表の世界の話だ。
リッシュのいる世界はそのような超常を技術として扱い、巨大な体系を創り出してきた。
人は裏世界に潜む超常異能の輩を、総じて呪法師マグスと呼ぶ。
「リッシュ」
呼ばれて、瞼を開く。
箱型の密室。耳が詰まる上昇の感覚。エレベーター内にいる。
「寝不足か?」
対面の女は黒髪、黒目、上下黒のパンツスーツ姿で腕を組み、壁にもたれかかっている。さっぱりとしたショートに切れ長の目元が特徴的で、どこかネコ科の動物を思わせるしなやかさがある。
レパード・ブラックストン。リッシュの先輩にあたる人物で、現在はバディを組んで任務に当っている。
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