雨夜の月

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朝から照りつける太陽が、閉めきったカーテンの隙間を縫って、薄暗い部屋に光の道をつくる。 今日も暑くなりそうだ…。 うつ伏せたまま、枕に顔を埋めて目覚ましに手を伸ばした。 時刻は朝八時。 「ん…そろそろかな…。」 ボサボサの髪を掻き上げて、ショボついた目を擦りながら洗面所に向かった。 鏡の前に立つのは、痩せた色白の覇気のない中年。無精髭を撫でて、ボリボリと頭を掻いた。 この数年間、このアパートの一室に潜んで生きてきた。 必要以上に人に会うことも、出掛ける事もない。 幸いにも、仕事はある。 起業と言えば聞こえは良いが、従業員もなく、一人でまわせて活きていける程度の稼ぎだ。 そんな俺に、楽しみが出来た。 一日一回、窓の外を眺める事。 決して接点など持ち得ない人を、眺める事。
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