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Episodio due Mondo della morte
屋敷の中庭に出ると、陽光に照らされた庭木が目をチラチラと突いた。
春に咲いた薔薇はとっくに花の季節を終え、庭師によって剪定されていた。
アルフレードは、中庭の入り口に一番近い薔薇の木を暫く見やった。
母との、最後の思い出の木になってしまった。
自身が願った蘇生のためというのが、何とも複雑だった。
自分を含めて、誰を責めていいのかが分からない。
小さく息を吐いた。
すぐには答えの出る問題ではないのだろう、そう思った。
「アルフレード様」
庭木の間から、高く細い声がした。
白とクリーム色でデザインされた上品なドレス。
飴色がかった金髪を綺麗に巻いて整え、洗練された仕草で日傘を僅かに傾けた。
許嫁のクリスティーナだ。
薄く化粧した頬をやんわりと緩め、こちらを向いて微笑した。
「本当に生きていらしたんですね」
クリスティーナは、深藍の目を僅かに潤ませたように見えた。
「亡くなったと思っておりましたわ」
「心配かけたな」
アルフレードは言った。
「正直申しますと、父はもう、他の嫁ぎ先を考えていたみたいですの。でもわたくし、アルフレード様を忘れて嫁ぐなんて出来ないと思いましたわ」
クリスティーナは静かに俯くと、両手を組んだ。
「奇跡を起こしてくれた神に感謝致しますわ」
やはり、可愛らしい。女性はこうあるべきだと思う。
こういう女性を守るためであれば、男も持てる力以上のものを発揮出来るというものだ。
出会い頭に男に平手打ちを食らわせたり、男の胸倉を掴むような女にぜひ見習わせたい。
「なるほど、これはつまらん女だ」
瞬きした瞬間。
黒髪の美女が横に立ち、クリスティーナの顔を覗き込んでいた。
美しい顔を傾け、クリスティーナの顔を穴が空くかと思うほどじっくりと眺めている。
「ナザリオの評価は、ここだけは適切だな」
「な……」
アルフレードは呆けた。
「べ……」
ベルガモットだ。
「……昼間から現れるのか」
「何と混同してる」
ベルガモットは、上目遣いでこちらを睨み付けた。
「何かありましたか?」
クリスティーナが周辺を見回した。
そうか、見えてはいないのか、とアルフレードは気付いた。
思わず手で口を押さえた。
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