Episodio uno Corridoio con persone morte.

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 日付の感覚が、かなり曖昧なのに気付いた。  ぼんやりと、昨日見たと思われる景色の記憶を掴む。  昨日は、庭の薔薇の蕾が匂いを放っていなかったか。  なぜ夏の風が吹いているんだ。  昨日とは、いつのことだ。  ドアの向こうで、ガタガタと音がした。  はしゃいだ感じでドアを開け入室したのは、女中と見たことのない男だった。  二人とも十代半ばほどだ。非常に若い。 「ここなら誰も来ないって。絶対大丈夫……」  男の手を引いた女中が、はたとこちらに顔を向けた。  目が合った。 「何をやっている」 「ええええ、ぼ、坊っちゃま?!」  正確には当主なのだが、跡を継いだのが少年の頃だったので、一部の使用人には慣習でそう呼ばれていた。  女中は、後ろにいた男を押し退けるようにして後退った。 「いやっ! やっ……」  青ざめて首を振る。顎で切り揃えた赤毛が、激しく揺れた。 「勤務中に男を連れ込むとは! しかも(あるじ)の部屋に!」 「いやあああ!」  女中は後退りし損ねて、その場に座り込んだ。 「神さま、神さまあ!」  何て大袈裟な、とアルフレードは内心で呆れた。  仕事中に破廉恥な真似をして神さまも何も無い。  女中の後ろにいた若い男が、黒い短髪を両手で掴むようにして頭を抱えた。 「あ、あなた、死んで埋葬されたんじゃ……」  アルフレードは目を眇めた。 「言い訳にしても頓珍漢すぎるな。何を言って……」 「そうだよ! 坊っちゃまは死んで埋葬されたんだ! あたしご遺体見たよ! 大奥さまが、あなたたちもって言って、棺に花を添えさせていただいたんだ!」  アルフレードは女中を見下ろした。 「気でも触れているのか。母上はどこにおられる」  女中は、ガチガチと震えながら言った。 「な、亡くなられましたよ」 「なに……」  アルフレードは、女中を睨み付けた。 「出鱈目を言うな。つい昨日、薔薇の蕾が付いて来たの何のとおっしゃっていたじゃないか」 「薔薇の季節は、二カ月以上前です……」  若い男が言った。 「……は?」  すれ違うようにして、誰かが部屋に入った。  アルフレードは咄嗟に振り向いた。  昔風のドレスを着た人物が、背中を向け部屋の奥へと歩いていた。  長く癖のある金髪。  背丈は低く、非常に幼い感じだ。 「あ……おい。お前もか!」  アルフレードは小柄な背中に向かってイライラと怒鳴り付けた。
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