追放

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「馬鹿を言え!なにをいきなり」  装甲車の自律機関銃から50口径弾が放たれる。一撃で人体をバラバラにできる威力のそれを、新津は手ではじく。いかに先手必勝の都界でも、治安維持部隊に属する者へ扱いではない。  知らないうちに、大きな動きに巻き込まれた。はめられたと理解した隊長、来栖の動きは速かった。  停まった状態から後輪を回し、車体で新津を飛ばす。とっさに足で受け止めた新津は、木造50階建てのビルに突入する。  ただちに一斉射撃が始まった。先ほどまで来栖のいた空間に、平均して100立方cmあたり一発の機関銃弾が投射される。だがその一瞬まえに、全力で逆回転した両輪が、来栖をもと来た地下道に落とし込んだ。  逃亡した反逆者に対して、部隊は沈黙を保つ。ただ無数の輸送車両の中から、六脚の機械が歩き出していた。  シルエットが立方体に見える機械の蟲。素早くはないがよどみない動きで地下道の入り口に到達すると、互いに重なって道を封鎖し始めた。合わせて胸で抱えられる位の、トンボじみたドローンたちが飛びよぶ。蟲の作った壁が2体四方の穴をよけてやると、その隙間から列車のように流れていく。  自働群体。都界の生態系を維持する掃除屋たちである。  その様を確認もせずに、中隊は各々の車両を動かして、包囲網をしくため走り出した。  30年代に全国ではやった復古運動によって、多くの分野で和が強調されることになった。建築もその例にもれず、木と紙で構成されたビルは、コンクリートとは別の威圧感のようなものをかもしだす。  それは原始の本能が、大木に対して畏敬の念をいだくからなのか。しめ縄によって扉が封鎖されていた。何らかの理由で使われなくなったビルなのだろう。その板張りの廊下を、新津は走っていた。  かく乱のために二手に分かれたが、このままではいられない。各個に撃破されるのがオチだ。いまや唯一の味方である来栖と合流しなければならない。  まさに野を駆ける獣のごとく、白い少女を背負ったまま、闇の濃い道を走る。その身体に、一時力がこもった。    目の前の扉が消し飛ぶ。硝煙の奥に砲台が見えた。自働群体。互いに支え合う六脚の機械たちが、ライフル砲を持ち上げて撃っている。  位置情報を誤認させ難を逃れた新津は、壁を三角跳びの要領で蹴ると、速射してくる砲弾から逃れ、非常階段に跳び入った。
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