犬のおまわりさん

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積極反応装甲(アクティブ=リアクティブアーマー)!?」  体表のレーダーによって弾丸の進行を精密に探知し、液体火薬を高速で噴出して逸らす積極反応装甲は、つい先月配備された最新式の装備である。  獣人が駆ける。地下道での火器の使用は推奨されていない。そしてインファイトこそ彼の得意とするところであった。  四足で大地を蹴ると、二桁あった間合いが消える。極小の円盤で覆われた手が、銃と防護プレートごと男の仲間を両断した。 男は逃げる。とにかく荷物は守らねばならないと自身に言い聞かせて。 既に二人目が切り捨てられていた。死体ごと撃ち抜こうと残る3人が弾をばらまくが、補助加速筋によって天井まで跳躍して避けられる。 二つに分かれた体が更に千切れ、誰が付けたかも知れない有機発光照明の光を曇らす。兎を獲る狐のごとく襲いかかる犬頭。高く盛り上がった鼻面の下、口にあたる部位が開く。 セラミックの白い牙。唾液のぬめりが血を吸って赤く。 首筋を噛みちぎる湿って固い音。噴出する深紅の動脈血。 真皮に注入されていた止血凝固剤が染みだし、出血を抑えようとして、異変が起こる。傷口が黒ずんだかと思うと、腐食して溶けていく。異臭が密閉された通路に立ち込めた。 「く、"腐り蛇"!」 呪術の中では、高い威力と使いづらさで良く知られたものである。人間の唾液中に一般的に含まれる連鎖球菌を、呪術によって爆発的に増殖させ、対象を生き腐らせる恐るべき業だ。 残酷な映像と腐臭の刺激によって、二人にまで減った犯罪者らはついに戦意を喪失する。小銃がコード屑の上に転がった。 使えない奴らめと心中で悪態をつく。 男は銃声と悲鳴が消えたことで、身を守る壁を失ったことに気付いた。荷物を目的地まで運ぶのは今や夢である。 男は素早く方針を転換した。逃げよう。荷物の中身が何なのか知らないが、複合素材と三重ロックのケースだけでもいい値はつくだろう。その金で遠くへ、ほとぼりが冷めるまで逃げる。 ほとんど妄想に近い将来図であったが、脳内分泌物の作用によって目の前が開けた心地がする。地図アプリを削除し、感覚を研ぎ澄ます。 風が吹き込んでくる方へと、脚部に増設した補助加速筋を最大稼働して突進した。 配管が破れ、壁が抜ける。下は地下鉄だ。
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