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違法物資
地下鉄の外観は半世紀、いや一世紀以上前から変わらない。コストと安全性から考えて昔ながらというのは一つの選択である。
ただ鋼鉄製であったレールはセラミックに、車両は軽量化のために大部分が強化プラスチックに置き換わっていた。
人工繊維質の枕木を舐めるように這い進む二輪車。エンジン音は秋雨のごとく穏やか。独立したサスペンションは、地面の凹凸を吸収して胴体を上下させない。
その後ろからついてくる四足で走る犬頭。車両にひけをとらない速度である。全身の補助筋肉を、走行用に集中運用した賜物。枕木を蹴るより空中にいる時間の方が長い有り様だ。
逃げる敵の背はすぐに視認できた。複雑多岐にわたる地下の交通網とはいえ、人間視点ではそこまで枝分かれしているわけではない。こちらが速ければ追い付く。
しかし追跡を長引かせれば不確定要素ほ増えるし、そもそんな時間の余裕はない。すぐに勝負に出る。
「新津、跳べ」
「了解」
獣の動きで、跳ぶ。無論超人的な運動能力を持つとはいえ、親指大の敵の背に食らいつけるような跳躍は不可能である。外部からの力がいる。新津が降りたのはバイクの後輪。高速回転する車輪上であった。
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