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モーメントに従い転輪の接線方向へと打ち出される。天井まで上がると、その面に足を付け一歩、二歩。上への推進力が切れた時には、不法人足の前に出ていた。
レール上を少しばかり滑走して、低く構える。襲撃の体勢は整っていた。
その殺気に押され、荷物を持った男は足を止める。前には猛犬、後ろには猟犬。逃走経路は存在しない。
「投降しろ。今ならば線路への不法侵入を含めても3年以内の強制労働で済む」
隊長が最小限の勧告を述べる。それ以上も以下も無い。無用を排した純なる口上であった。男は行く手を遮られた蟻のように、しばらくうろちょろしていたが、突如胸元に手を入れ何かを取り出した。
「う、失せろ狗共ぉ!れ、レールを吹っ飛ばすぞ!」
手に握られた黒い卵型の物体は、燃料気化榴弾である。正確には微小な燃料粉を爆圧で飛ばし、一気に引火させるものだが、効果はほぼ同一であり、なるほど小さなトンネルに致命傷を与えることは可能である。
威力相応の値段はするのだが、雇い主にお守り代わりに持たされたものかもしれない。無駄な火力は阿保を引きよせるものである。
ここで列車の運行に支障が出れば、呪毒防護隊全体に類が及ぶのは間違いない。脅しとしてはまずまず、及第点と言えよう。
だがその程度の脅しは予想されるのが常である。彼らは本職であった。
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