違法物資

3/5
前へ
/12ページ
次へ
 隊長の左胸から光が漏れる。青白い、冥府のような輝きが。 「おい!なにして」  言い終える前に、隊長が胸の装甲を開いた。冥く輝くブルーライト。しかしこれは演出に過ぎない。本質は不可視の光線。コバルト60から放射されるγ線である。 突如として男が苦悶の声を上げ、顔をかきむしる。露出した皮膚が焼けただれていた。  もちろん人が持ち運べる程度の線量で、このような効果を起こすことはできない。科学的には。  しかし青い光による演出と放射線に対する現代人の本能的嫌悪によって、超自然の影響を及ぼす。これがいわゆる現代呪術である。  反射で手榴弾を握り身体を丸めるが、最後の意地かピンを引き抜こうとする。  その手首から先が千切れ落ちた。  新津の前腕部から放たれた杭。手の極小円盤の回転によってさらに加速され、男の手首を穿ったのだ。威力の調節が簡易に可能な飛び道具として新津は愛用していた。  落とし物を拾おうとするかのように、男がうずくまる。すでに敢闘の意志は失せていた。 「確保した。移送する。新津、物資を運べ」 「了解」  新津は痛みに震える男を尻目に、ケースを手に取ろうとして、不意に止まった。  「どうです、隊長は」  隊員の一人が原田に尋ねる。二人が路線に突入してから1分20秒が経過していた。 「問題なさそうだ。今新津が逃走者の無力化に成功した。2分30秒までには戻れるだろう」  原田が高速通話で答える。路線内の状況を確認しながら、他分隊の動き、被害とそれによる影響などをリアルタイムで観察する。 「しかし8分とは、ちょっと妙ですね。普通地下鉄って5分間隔くらいで動くもんじゃないですか?」 「ここも都界の端っこだからな。いつできたのかも分からない路線だ。運行が不安定なことも……ん?」  原田の手が動く。空中のホログラムキーボードをたたくしぐさ。よほどのことが無い限り目線と思考操作で済ますのが常の現代では珍しい。 「どうしました?」 「いや、いやおかしいぞ!便が追加されている!」 「はあ!?どういう、見間違いじゃあ」 「違う!今ダイアグラムが書き換えられていってるんだ!追加で貨物列車が来ている!」 「いつですか!?いつ来ます!?」 「今だ!隊長!今そちら」  言い終える前に原田の上半身が崩れた。横にいつの間にか刀を持つ鎧姿。  隊員たちが銃を構える。地下道に血しぶきの舞う音だけが反響する。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加