違法物資

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 衝撃から守るため、厳重に固定されたのが功を奏してか、内部は大事故の後とは思えないほど整っていた。荷物のほとんどを占めるのは、強化アクリル製のカプセルである。  2mほどの高さのそれには、生物由来のものであろう構造が浸かっている。ほとんど原型をとどめていないが、かつてはヒトであったはずのものも見えた。 レベル2、ヒトとしての機能を残した改造であるレベル1とは違い、生物学的に人類と離れてしまったものを指す。  現代日本においても厳しく禁じられている存在だ。関与したものは、それこそ刑罰でレベル2の実験台にされかねない。創設以来、数えるほどしかない大捕り物である。隊長は増援の要請を飛ばした。 「原田、第一分隊を直ちに我の位置に向かわせろ。……原田」  (いら)えはない。あるはずの無い列車、かつてない規模の囮と違法物資。隊長は自らの、小隊の置かれた状況をいち早く理解した。  そして新津の声が響く。 「隊長!生存者、女の子がいます!」 「確保しろ。直ちに離脱する」 「は、ですが増援を」 「増援はこない。第一分隊は全滅した」  絶句。冗談でこのようなことを、いやそもそも冗談を言うような男ではない。声に乱れはないが、踵の音がわずかに高い。何も言わずただ付き従う。少女は他のカプセルとは違い、厳重に遮光を施した、むしろ棺桶に似た箱に収まっていた。  その厳重さに違和感を感じた新津が、さらにその超感覚なしでは見つけ出せなかっただろう。  色素を一つ残らずつまみ出したような白さだった。瞳の紅を透かす瞼、その上のまつ毛までも白い。髪は光ファイバーじみて輝き、唇と爪をほのかに染める桃色が儚い生命を映している。  改造されているのは間違いない。ただどの程度かは、新津の能力をしても見当もつかなかった。自然だ。人間と非人間の継ぎ目が見当たらないほどに自然に創り変えられている。  どこの企業が、あるいは国家が作り上げたのか、そう考えながら列車を降りる。隊長はバイクを何度か押したり引いたりすると、軽くエンジンをふかす。生物的とも聞こえる音に不備はない。やられたのは骨組みのみ、それもすぐに回復するだろう。 「乗せるか」 「いえ、自分が運んだ方が安定します」 「任せる」  都界のはらわたを二頭の犬が疾駆する。少女は自信を運ぶもの共の牙も知らず、穏やかに眠りこけていた。
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