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追放
都界の地下はカオスそのものであるが、その構成部品の種類は少ない。プラスチック質の配管、ケーブル、繊維コンクリート、その他金属木材砂利セラミックが少々。
それらがより集まって小規模の構造を形作り、構造は有機的に連結して、密林のごとき様相であった。
獣の代わりに重機が唸り、鳥に代わってドローンがさえずる。その音楽がしばし鳴りをひそめる。地底から這いのぼってくる存在に脅威を感じ取ったためである。
経済活動の末に半分自然に発生した地下通路である。そもそも人が通行することを想定していない。ゆえにそこを走り抜くのは、人間でない動きをする何かだった。
独立した両輪で、外見同様蛇のように地を滑る二輪車。狗の面が本物に思える、四足で駆ける兵士。
その背中にゆわえられているのは、意識の無い少女である。
三人の内は知っている二人が地上へと急ぐのは、本部への連絡をとるためである。
たとえ地下であっても都界の中ならば通信はできる。しかし不法に増築された構造の中と言うのは、表に出せない何から何までの機械がひしめいている場所である。妨害電波ならばまだまし。どこかの変態技術者が、コスト度外視で設置した盗聴装置などがあれば、通話内容から個人情報まで抜かれかねない。
通信の安全が担保された公共空間に出なければ、小隊の異常を伝えられない。そして犠牲の上に手に入れた証拠も。
都界黎明期の建築自由化による無軌道な増築ラッシュによって、太平洋沿岸地区の標高は50mほど上がっている。それに加えて目的も無く曲がりくねる通路では、この二人といえども最高速度を出し続けることは出来ない。なにげなく過ごせばすぐに過ぎる、しかし急ぐ者にとっては確かに意味のある時間が失われた。
走り続けた果てに、最後の曲がり角をくぐって、光が狗たちを出迎える。
防護服が無ければやけどを負いそうな照明。茶色の都市迷彩がほどこされた装甲車が辺りを取り囲む。完全武装した中隊規模の軍勢。都界で動かすには過ぎた規模である。
どこからともなく、いや、あたりの建築全体から声が響いた。
「都界直轄呪毒防護隊第104小隊、小隊長来栖純一、隊員新津音無。直ちに火器管制システムより全武装を削除し、携行備品を放棄した上で投降せよ!貴君らには都界自治法によって保障された権利があるが、これを拒否した場合無効となる!」
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