1. 始まりは、地に落ちた雪のように

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 新郎のコンフィは行政面において多数の功績をたてた優秀な人物であり、水神の国を財務官にして代々内政面を支えている名門貴族セントゥリア家の現当主の座に就いている。  一方で国内随一の漁色家であり、気に入った女性は見境なしに自分の物にしてしまい、飽きたら鼻をかむ布のように雑に扱い、最後はごみの様に捨ててしまうという噂がたっている。 「まぁ良い噂は聞かぬが、彼の政治手腕が確かなのは事実だ。成人の儀も終わっていない十歳の”何も知らない幼子”にこの国の命運を委ねるよりかはまだ良いと国王も判断したのだろう」 「そなたも中々言いますな」  水神の国には男児の跡継ぎがなく、国王と王妃の年齢はどちらも五十後半と老齢だ。  このままではアクアクラウン一族の血が潰えてしまうと危惧したのだろうか、十二歳の誕生日に行う成人の儀を待たずして婚約を急いだという背景もある。  これらの理由のせいで二人の結婚は、愛の結実というよりも”国や大人の為に都合よく売られた少女と、その少女を買った下賎な男”という印象がどうしても払拭できずにいる。  貴族の間では、”高貴な雪宝石を泥と煤で磨く行為”と揶揄されているくらいだ。  そんな悪い噂が絶えない中、彼女は新郎の手を離すとロングトレーンが椅子に絡まないよう使用人に手伝われながら、館の一番奥にある主賓席へついた。     
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