05 オタク・オタク・オタク

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 その日の深夜、俺は三人を部屋に呼んだ。 「皆に話したいことがある」 「何っすか急に?」  パジャマ姿のユーリが枕を抱えたまま目を丸くしている。 「私、これから寝るところだったんだけど」  ザクレットゥは大きな欠伸をしながらソファに座った。  部屋着なのか、Tシャツのラフな格好だ。  メメンプーはモンスター柄のパジャマ姿で、大き目のやつを買ったからか、ぶかぶかで袖からは指先しか見えない。  右手には羊のぬいぐるみトニーを抱えている。  俺の顔を見て悪い予感がしたのだろう。  メメンプーはしかめ面を貼りつけたまま、俺の前の席に座った。 「旅はここまでだ。ピンインに戻るぞ」 「何を言ってるのだ! まさか……あのチケットが手に入ったからか?」  メメンプーは今にも立ち上がりそうな勢いで抗議した。 「チケットって何のことっすか?」 「酒池肉林のコロニーの招待券だって」  ザクレットゥの白い目が胸に刺さる。 「えぇ?」  ユーリが目を白黒させる。  おいおい、信じるなよ。  興味はあるけどよ。 「本当にそのチケット手に入ったから旅止めるんすか?」 「そんな訳ねぇだろ」 「それでは何なのだ?」 「それはだな……」  まさかメメンプーの前で、母親が死んでいるかもしれないとは言えない。  メメンプーはあまり母親に興味がなかったし「母親探しの旅」なんて、メメンプーにとって建前に過ぎなかった。  だが、最近は本気で興味を持ち始めているように見えたのだ。  そんな状況で、母親が死んでるなんて知ったらショックを受けざるを得ないだろう。  直感かもしれないが、メメンプーの母親に対する興味は加速していく。  孤独な天才だからこそ、同類を求める。  そんな気がしたのだ。  答えに窮していると、眉を寄せたメメンプーが俺を睨んできた。 「ガガンバは嘘つきだ! 覚悟を決めた筈なのに! 見損なったぞ!」 「お前な……」  メメンプーは大きな瞳に涙を浮かべ、机を叩いて立ち上がった。  余程旅を続けたいのだろう。  何かを発見する度に見せた笑顔、駆け寄る背中を思い返すと胸が痛くなる。  メメンプーの小さな身体は、怒りと悲しみで震えていた。 「何で母さんは私を連れて行ってくれなかったんだ。何でガガンバの方だったんだ!」  引き留める間もなく、メメンプーは部屋を出て行った。 「俺、メメンプー追って来るっす」  ユーリは神妙な顔で呟くと、上着を取って部屋を出た。  一旦廊下に出たユーリだったが、もう一度、ドアの隙間から顔を出す。 「旅、続けた方が良いと思いますよ」  俺は大きな溜め息を吐いて立ち上がった。 「まったく反抗期ってのは……」  煙草を吸おうと、壁に掛けていた上着を取りに立ちがったのだが――段差に躓いて転びそうになる。  そんな姿を見たザクレットゥが、口元を抑えて笑っていた。 「おいおい、何がおもしろいんだよ?」 「あなたが動揺するの初めて見たから」 「う、うう、うるせー」  ザクレットゥが涙を拭いながら、俺の目の前の席に座った。  さっきまでメメンプーが座っていた場所だ。 「追わないの?」 「ユーリが連れ戻してくれるだろ。放っておけ」  実はショックで立ち上がれないとは、口が裂けても言えない。 「本当は別の理由があるんでしょ? そうじゃなくても、あの娘を危険な目に合せたくない。巨大生物だけじゃなくて、ハッカーに襲われたり、マフィアに追われたりしたものね。しかもコアシティは巨大生物がたくさんいるらしいし」 「知ってたんならフォローしろよ」 「そのまま気持ちを伝えれば良いのに。不器用な男ね」 「……」  反論のしようがない。  俺はやり場のない気持ちを吐き出すように、視線を外して電子煙草の煙をふかす。  直ぐにユーリがメメンプーを連れて帰ってきたが、その日はザクレットゥの部屋で寝るとのことだった。 「親父さん、俺が付き合いますよ」  ユーリは寝間着のままソファに座ると、親指と中指を合わせ、ホテルサービスプログラムを呼び出した。  ホログラムで表示されたリストを吟味し、ワインボトルをと炭酸ジュースを頼む。  付き合ってやるというので、ユーリ持ちかと思っていたが、ちゃっかり俺の部屋番号を告げている。  それでも、付き合ってくれるやつがいるなら、一人でグラスを傾けるよりはマシだろう。
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