エピローグ

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エピローグ

 そうやって俺はかっこよく死ぬはずだった。  だが――次に目を覚ますと、白い内装の部屋のベッドに寝かされていた。  左隣を見ると白いレースのカーテンが揺れ、窓から風が入り込んでいた。  少し首を捻っただけで、腹部や胸部に痛みが走る。  あの戦いで助かったのは奇跡だ。  ラレーシアとサイバースペースで会った後のことはまったく思い出せない。   そういえば――ハッキングをしたのだった。  右腕を布団から手を出してみると、包帯でぐるぐる巻きにされていた。  左手だけではなく、右手の感覚もない。  約束を破った罰だ。仕方がない。 「あ……う……」  声は出るようだが、酷く涸れてやがる。 「ガガンバ……?」  右に視線を移すと、花瓶を持ったメメンプーが立っていた。  ドラマで観たことあるパターンだ。  花瓶を落とすんだろ、と思ったところで、ガシャンと花瓶の割れる音が響く。  ありがちなシーン過ぎて笑いがこみ上げるが、声が漏れる度に、胸や腹部が痛んだ。 「ガガンバッ!」  小さく叫んだメメンプーが駆け寄ってきて、ベッドにダイブした。  同時に激痛が走る。 「ぐあッ! し、死ぬゥ!」 「ガガンバ! ガガンバ!」  泣きじゃくる娘は、いつも大人びて見えるが、やはり子供だ。  俺は包帯で巻かれた手を上げ、優しく小さな頭の上に載せた。  感覚はないが――そこには確かにメメンプーがいた。 「はは、ちょっと無理し過ぎたな」 「無理し過ぎだ……ちゃんと説明してもらうからな! 私はもう……あのままガガンバが帰ってこないんじゃないかと……」  メメンプーがまた泣き出した頃、部屋の外にいたユーリがこちらを覗き込んでいた。 「ガガンバーの親父さん!」 「ちょ、待った! ユーリ、お前まで抱きつくんじゃねぇぞ!」  と拒否しているにも関わらず、ユーリもダイブしやがった。 「ぐおぅ……」 「何、バカなことやってるのよ」  ザクレットゥが呆れた顔で、溜め息を吐いている。 「でも、せっかくだし、私もやっておこうかしら」 「待て、死ぬゥ……」 「冗談よ。それから、医者、呼んでおくから」  コールボタンを押すザクレットゥに礼を言う。 「あの後、何があったんだ?」 「ザクレットゥの姉さん、気が気じゃなかったみたいで。実は管制局本部をずっと張ってました」 「勘違いしないで。メメンプーの為よッ!」 「で、ガガンバーの親父さんが入った後、暫くして、突然、局員たちが混乱し初めたんスよね。チャンスなんで、ズバッと突入したんっス」  ハッキングでセキュリティを掻きまわしたからか。  それとも、ラレーシアが協力してくれたのか。  いずれにせよ、二人に救われたということだ。 「そうだ、メメンプー。母さんにも会えるぞ」 「ガガンバがいればいい」  メメンプーはそう口を尖られ、ベッドから離れない。  いつもこれくらい素直だったら良いのだが。  明日になればまたいつもの生意気なメメンプーに戻っているだろう。  巨大生物が自作自演だった以上、マーカーへの転職者も増えるだろうし、いずれラビリンスの真相も明かされる。  これからどうなるのか、全く分からないが、よくよく考えれば、これまでの旅だってそうだった。  まさか一年前までは、死闘を繰り広げるなんて、思ってもいなかったのだから。  考えないといけないこともたくさんあるし、身体も痛いし、腹も減ったし、しばらくは入院生活が続くだろうし。  よくよく考えると、散々な日々の応酬だが、メメンプーが笑ってくれるなら、まぁいいかと思えてしまえる。  今は歴代最高潮にしおらしくしてるがな。  どうせまた「旅に出たい」ってピーピー喚き出すぜ。  マジで、絶対に、だ。  賭けてもいい。  こいつのことは、俺が一番知っているんだ。  何せ、親子だからな。 了
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