プロローグ

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プロローグ

 カビと油と埃の匂いが鼻につく洞窟の迷宮。  すべての人間がここで生まれ、死んで行く。  俺たちラビリンスの人間は、自分が生まれたコロニーから出ることができない。  一歩外に踏み出せば、危険なラビリンスが待ち受けているからだ。  ラビリンスには一寸先すら見えない闇が広がり、温い風を切って歩くと何かを踏み砕く音が響く。  それは骨と僅かな肉が絡まった人間の死体で、大概はきつい悪臭を放っている。  だが、油断するな。  そんなことで叫んでいたらキリがない。  叫んでヤツラを引き寄せれば、人間の身体なんか紙屑のように引き裂かれ、一瞬で血のワインと骨付き肉の餌になっちまう。  そんな危なっかしい場所なんだ。  だが、それがマシなのか、そうでないのかは分からない。  だってそうだろう。  俺たちは生まれた時から、この危険や窮屈さと生きてきたのだから。  この岩と砂の洞窟が、俺たちの故郷なんだ。
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