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節電の為、コロニーの照明は時間経過とともに落ちることになっている。
既に半分以上の照明が消え、店の窓から漏れた光が街を彩る。
観光名所も多い水のコロニー、ジョリ・ジョリー。
一切観光ができなかったので、街並みを見下ろしても複雑な感情しかこみ上げてこないが、命が狙われている状況では仕方がない。
「次はどこに向かうのだ?」
メメンプーがメットの紐を結びながら尋ねる。
「そうね……まずは色々なコロニーへの分岐点になっているアレー・ヤールに行くのが妥当だと思うわ。作業ロボで歩いて二日で着くから、コロニー管轄区域の休憩スポットで一度休んで、出発でいいんじゃないかしら」
ザクレットゥもバイザーメットを被り、バイクのエンジンをかける。
「アレー・ヤールってどんなところなのだ?」
ザクレットゥはPCで情報を表示して読み上げた。
「人口約一万人。最も技術が進んだ都市と言われているわ。グローブPCや作業ロボもここで生まれたみたい」
「ふむ」
「ちなみに道中には貴重な鉱石も多いらしいから、しっかり採取して借金返済に回すように」
「へいへい……」
作業ロボの後ろをザクレットゥのバイクがついてくる。
車体を左右に倒して障害物を避け、時には飛び越えて進む様には、驚きの声を上げざるを得ない。
「器用なもんだな」
「慣れれば簡単よ」
適当に会話をしていたところで、メメンプーが突然、コンタクトに割り込んできた。
「ガガンバ! ザクレットゥ! D〇〇三一区間に反応があるぞ!」
「巨大生物か?」
「違うぞ、この反応は……人間なのか?」
「人間?」
メメンプーの指示を受けて作業ロボを操作。
慎重に洞窟突き当りの角を曲がると、壁際にスーツ姿の男がうつ伏せになって倒れていた。
俺は作業ロボから降りて男を起こす。顔が真っ青だ。
「おい、大丈夫か?」
シルバーフレームの眼鏡を掛けた男が、咳き込みながらゆっくりと目を開いた。
「ぐ……絵は……」
「絵?」
「ジョン・ヴァナーの……絵です」
周囲に視線を走らせても、目につくのは男の持ち物であろう中折れ帽と作業ロボだけで、それ以外は見慣れた岩肌が広がっているだけだ。
「見当たらないな」
意識を取り戻した男は、壁に寄りかかると、差し出された水筒に口をつけた。
「すみません……。私はアートディーラーのメローロです」
「アートディーラーって何だ!」
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