01 スレイブ・ドッグ

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01 スレイブ・ドッグ

 いきなりで悪いが――俺の娘は賢い。  むしろ、九歳にしては賢過ぎる。  鼻頭は油で汚れ、服も泥だらけ。  男手一つで育てた影響か男口調だし、そそっかしい性格は、口が裂けても女の子らしいとは言えない。  むしろよく男の子に間違えられているが、鼻をタレてミルク瓶にしがみ付いていた頃と比べれば、一応は順調に育っていると言えるだろう。  それにベッドで眠っている姿だけを見ればかわいい。  母親に似た長い睫毛や乳白色の頬、少し開いた桜色の唇、ふわりと広がる亜麻色の髪はまるで天使。  眠っている姿を見る度に、俺に似なくて本当に良かったと思うくらいだ。  こんなことを連ねれば、親馬鹿だと思われるかもしれないが――決してそんなことはない。  残念なことに、こいつが可愛いのは眠っている時オンリーなのだ。  それ以外の時は容姿を打ち消して余る程のどうしようもない性格をしている。  賢いが故の早い反抗期。  異常なまでの好奇心。  生意気な上、言うことを全く聞かない頑固な性格は、一体誰に似てしまったのやら。  俺の娘――メメンプーは、いつものハーフカーゴパンツにタンクトップ姿で、真剣な表情を顔に貼り付け、しきりに頷いていた。  相槌の度にゴーグル付きのヘルメットが揺れる。  俺が一人娘の成長に感心しながら饒舌に話していると――。  突然、パァンという破裂音が響いた。  何があったのかと考えている内に、頬が熱を帯びていく。  どうやら平手打ちされたらしい。  さっきまで真剣な顔で話を聞いていた娘――メメンプーは、いつの間にか前かがみに立ち上がり、フーフーと鼻息荒く、真っ赤な顔で眉間にしわを寄せていた。
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