だまっていればの桜子さん ~彼女の履歴書~

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 保身システムが働いたのだろう。  彼女は少年に背を向け、その場から一目散に逃げ出した。 「ちょーーーーっ! ちょっ! なんで逃げるんスか!」 「私は大金なんてもってませーーーーん!」  彼女は走りながら大声で叫ぶ。  足で土を踏みつける度、花びらが空中にひらりと舞い上がる。 「カツアゲじゃないっス!!!」  少年も負けじと大声で返答する。  目に花びらが飛び込んできたので、少年は右手でバッと払いのけた。 「あと私は若くみえるかもしれませんが、ものすごく歳をとってますーーーーっ!」 「ナンパじゃないっス!!!!」  短い攻防戦の末、体力のある若者に軍配が上がった。  少年は彼女の腕を掴み、彼女の動きを止めることに成功した。  彼女と少年はぜいぜいと肩を上下させている。  少年が彼女の顔を覗き込むと、涙目になって怯えていた。 「あ…あの、お金巻き上げたり襲ったりしないんで、話をきいてもらえまスか?」  彼女は訝し気な表情を浮かべているものの、小さくコクンと頷いた。  少年は彼女の腕をそっと離しながら口を開いた。 「お姉さんも死んだんですよね?」 「へ?」  彼女は目を丸くさせて少年の顔を見つめた。 「だってほら、あそこに見えるの三途の川ってヤツっしょ?」  少年の指さす方向へ彼女は視線を移す。  目線の先にはゆっくりと流れる大きな川があった。水面に光があたってキラキラと輝いている。向こう岸は靄がかかっていて良く見えなかった。 「ここを渡ると天国にいけるっス! 多分!」 「ま、まさか。そんなはずない! 私が天国になんて行けるはずがない……!」 「えっ、お姉さん、そんな可愛い顔して悪党だったんスか?」 「違う! 私は……私は……」  彼女は糸が切れたかのようにその場にへたりと座り込んだ。
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