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乱雑な字だった。
字を覚えたばかりの子供のような拙い字だった。
乱暴な文だった。
感情を抑えきれずに書き殴ったことが一目で分かる。
計23枚、彼女の遺書の枚数だ。
その文を読めば読むほど彼女の顔が思い浮かぶ。
笑っているように見せている不気味な表情しか僕は知らない。
彼女の遺体を確認したのは僕だ。
血縁者でもなければ恋人でも友人でもない。
それどころか、僕は彼女をよく知らない。
会社で知り合って、会社の中の彼女を遠くで見ていただけだ。
たまたま、彼女の住むマンションが僕と同じで
無断欠勤をしたことがない彼女が音信不通となり会社に来なくなって2週間。
上司から頼まれて、仕方なく様子を見に行った。
彼女の母親が様子を見に来たのもその日だ。
偶然が重なって、僕は彼女の部屋に入ることとなったのだ。
そこで彼女の遺体と遺書を見つけた。
遺体を見つけた時の僕はドラマみたいに叫んだり動揺したりといった事が無かった。
部屋に入った段階で、分かってしまったからだろうか。
僕の鼻を破壊するのではないのかと思うほどの異臭が全てを物語っていた。
あんな異様な部屋に人が住んでいるわけが無い。
そして玄関口から見えた部屋の様子からゴミなどの異臭である可能性も皆無だった。
その、匂いは僕に全てを教えてくれていた。
だからこそ、冷静でいられたのかもしれない。
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