11人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「冷たくて気持ち良いだろ」
くつくつと肩を揺らす栄二朗に、隼人が声を荒らげる。
「お前、最初からそのつもりだったろ!」
「ああ」
「もう! どうしてお前ってそうなんだ、栄二朗!」
狙いを定めず甘く繰り出す拳を、栄二朗が柔らかく握り取る。砂に足を取られ、転びそうになった隼人を、栄二朗が抱きとめた。
「わっ」
「大丈夫か?」
「……うん……サンキュ」
照れ臭かったが、礼を言う。昼間のビーチでは、こうはいかないだろう。沈んでしまった夕陽が、ふたりの秘密を守ってくれる。そう思い、隼人も栄二朗の胸に身体を預けた。
「隼人」
「何?」
「顔上げろ」
「嫌だ」
「何でだ?」
「キスするだろ」
「しない」
「本当に?」
「ああ」
「絶対?」
「ああ」
隼人が顎を上げると、素早く掠め取るように、チュ、と唇が奪われた。
「栄二朗!!」
腕の中で暴れる隼人を強く抱き締め、栄二朗は珍しく声を上げて笑った。それに驚いて、隼人はすぐ上にある楽しそうな栄二朗の顔を見上げた。額同士がコツリと合わされ、柔らかく癖っ毛が撫でられる。その感触に、隼人は何処か切ない懐かしさを思い出した。
恋人同士になるまでは、よくこうやって髪を撫でられて、その度に動悸を隠せなかった。栄二朗の本当の笑顔も見た事がなかった。それが今は──。
「栄二朗」
再び隼人は、大人しく栄二朗の肩に頭を乗せた。その変化に、栄二朗が怪訝そうに呻く。
「ん?」
「俺のこと好き?」
「……ああ、愛してる」
「俺も」
辺りには誰も居ない。秘め事が、甘く囁かれた。
「愛してる」
* * *
最初のコメントを投稿しよう!