オーシャン・ビーチ

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「冷たくて気持ち良いだろ」  くつくつと肩を揺らす栄二朗に、隼人が声を荒らげる。 「お前、最初からそのつもりだったろ!」 「ああ」 「もう! どうしてお前ってそうなんだ、栄二朗!」  狙いを定めず甘く繰り出す拳を、栄二朗が柔らかく握り取る。砂に足を取られ、転びそうになった隼人を、栄二朗が抱きとめた。 「わっ」 「大丈夫か?」 「……うん……サンキュ」  照れ臭かったが、礼を言う。昼間のビーチでは、こうはいかないだろう。沈んでしまった夕陽が、ふたりの秘密を守ってくれる。そう思い、隼人も栄二朗の胸に身体を預けた。 「隼人」 「何?」 「顔上げろ」 「嫌だ」 「何でだ?」 「キスするだろ」 「しない」 「本当に?」 「ああ」 「絶対?」 「ああ」  隼人が顎を上げると、素早く掠め取るように、チュ、と唇が奪われた。 「栄二朗!!」  腕の中で暴れる隼人を強く抱き締め、栄二朗は珍しく声を上げて笑った。それに驚いて、隼人はすぐ上にある楽しそうな栄二朗の顔を見上げた。額同士がコツリと合わされ、柔らかく癖っ毛が撫でられる。その感触に、隼人は何処か切ない懐かしさを思い出した。  恋人同士になるまでは、よくこうやって髪を撫でられて、その度に動悸を隠せなかった。栄二朗の本当の笑顔も見た事がなかった。それが今は──。 「栄二朗」  再び隼人は、大人しく栄二朗の肩に頭を乗せた。その変化に、栄二朗が怪訝そうに呻く。 「ん?」 「俺のこと好き?」 「……ああ、愛してる」 「俺も」  辺りには誰も居ない。秘め事が、甘く囁かれた。 「愛してる」     *    *    *
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